日本と太平洋島嶼国と福島第一原発事故のレガシー
Yuichi Yamazaki/Getty Images
Interview

日本と太平洋島嶼国と福島第一原発事故のレガシー
塩澤英之氏とのQ&A

Interview with Hideyuki Shiozawa
February 8, 2022

昨年、日本政府は福島第一原子力発電所からALPS(多核種除去設備)処理水を太平洋に海洋放出することを発表した。NBR所属の會田千尋は東京にある笹川平和財団に所属する塩澤英之氏と、この日本政府の発表が日本と太平洋島嶼国の関係、または今後のインド太平洋における日本の役割をどう影響するかについてインタビューを行った。

Read an English translation of this interview here.

菅政権の下、日本政府は4月に福島第一原発の汚染水を海洋放出することを宣言しました。その決断について、特に太平洋島嶼国に対してどのような考慮・コミュニケーションがありましたか。そして、今後日本政府はどのように状況を改善してくべきでしょうか。

首相の高度な判断に基づく宣言であり、その情報は慎重に扱われていたと聞いています。太平洋島嶼国に対しては同宣言の発表直前に概要が伝えられたようですが、一方的な決定の伝達という形となってしまい、太平洋島嶼国側との事前協議は行われなかったようです。そのため、同宣言発表後には、テイラーPIF事務局長(当時)、当時の議長国であったツバルのナタノ首相が菅首相に対して懸念と協議を求める書簡を発出し、さらに日本と太平洋島嶼国の関係悪化を懸念したミクロネシア連邦のパニュエロ大統領が日本の友人として事態の重要性を伝えるために菅首相に書簡を発出しました。それらの書簡には、「nuclear waste」や「dump」という言葉は使われておらず、「ALPS treated water」、「release」と冷静に表現されていました。

太平洋島嶼地域では、現在のマーシャル諸島、キリバス、仏領ポリネシアで核実験が行われた歴史があり、太平洋島嶼国には核に対する非常に強い問題意識があります。1971年の現在の太平洋諸島フォーラム(PIF)の設立の要因の一つにフランス核実験への抗議があり、1985年には南半球の太平洋島嶼国11か国および豪州、ニュージーランドがラロトンガ条約(Treaty of Rarotonga、南太平洋非核地帯条約:South Pacific Nuclear Free Zone Treaty)を結びました。

日本とPIFの関係は、1981年、日本に対する核廃棄物海洋投棄計画へのPIFの抗議から始まり、1990年代には欧州からのMOX燃料輸送計画について懸念が示された歴史があります。

日本政府は、このような太平洋島嶼地域の歴史、日本と地域との歴史を正しく認識し、太平洋島嶼国に直接関わる問題については、公式発表前に、太平洋島嶼国各国の首脳に対して根拠を示しながら丁寧な説明を行い、首脳の意見を丁寧に聞くことが重要だと考えます。

原発の汚染水を海洋放出することで、日本周辺の国々、特に太平洋島嶼国にてどのような環境被害もしくは生態系への被害が予想されますか。例えば、日本と太平洋島嶼国における漁業へのどのような影響が見込まれますか。

日本は2021年7月2日に第9回太平洋・島サミット(The 9th Pacific Islands Leaders Meeting, PALM9)をオンラインで開催しました。PALMは1997年以来3年に1度開催されてきた、日本と太平洋島嶼国首脳が直接対話する場です。そこで菅首相(当時)が「ALPS処理水の海洋放出は環境及び人体に実害がないことをしっかり確保した上で実施されること、並びに、日本は 透明性が高く時宜を得た形で、また国際原子力機関(IAEA)と緊密に協力して、PIF加盟国・地域に科学的根拠に基づく説明を引き続き行っていくことを改めて強調」しました(首脳宣言パラ11)。

科学的には環境被害は想定されていませんが、太平洋島嶼国側には依然として住民の健康への影響や、海洋生物資源への影響を懸念する声があります。また、太平洋島嶼国にとってマグロを対象とする入漁料収入が重要な歳入源です。そのため、太平洋島嶼国には、科学的に問題がないと数値が示された場合でも、汚染処理水が放出されている太平洋で獲られたマグロとレッテルが貼られ、マグロ価格や入漁権の販売価格に影響があるのではないかとの懸念の声もあります。

インド太平洋における気候安全保障を強化するために、日本と太平洋島嶼国はどのように協力していくべきですか。現時点で日本と太平洋島嶼国間におけるパートナーシップやハイレベル対話は存在しますか。

気候変動の脅威に対しては、緩和(mitigation)と適応(adaptation)の2つの対応があります。太平洋島嶼国は低環礁島や低地が多く、海面上昇や極端な気象現象が住民の生命および国家存続に対する直接的な脅威となります。そのため、前者の緩和については、太平洋島嶼国は、産業革命前からの気温上昇を1.5に抑える「1.5度目標」実現に対する国際社会の行動、すなわち、世界の排出量を2030年までに10年比で45%減らし、2050年には実質ゼロにする行動を求めています。後者の適応については、防災が含まれており、太平洋島嶼国は災害に強靭な国家実現を目指しています。

さらに、太平洋島嶼国は産業国のこれまでの活動が気候変動の要因の一つであり、その影響により損害を受けているという考えがあります。そのため、Loss and Damageの議論の中で、太平洋島嶼国は特に先進国に対し、借款(ローン)を含む援助ではない形による資金を求めています。

日本は産業国であり先進国です。緩和については太平洋島嶼国の声を国際社会に反映できるよう、特に国際場裏や交渉において、同意できる部分では協力することが重要です。また、日本は災害の多い国(natural disaster prone country)であり、災害対応経験や高い防災技術を有しています。そのため、日本は太平洋島嶼国の災害への強靭化や災害対応に対する協力として、政府開発援助によるインフラ整備、技術協力、人材育成を行っています。特に災害対応については、日本の自衛隊(JSDF)が重要な役割を担います。

日本と太平洋島嶼国間のハイレベル対話は太平洋・島サミットになります。閣僚級では、2021年9月2日、初の日・太平洋島嶼国国防大臣会合(JPIDD: Japan Pacific Islands Defense Dialogue)がオンライン形式で開催され、自由で開かれたインド太平洋、海洋安全保障、新型コロナウイルスへの対応、気候変動とHA/DR(人道支援・災害救援)について意見交換が行われました。

今後、四ヵ国戦略対話(Quadrilateral Security Dialogue)、「自由で開かれたインド太平洋」(FOIP)、日米クリーンエネルギーパートナーシップ(JUCEP)などの日米協力がどのように日本のインド太平洋におけるリーダーシップを補足すると考えますか。

QUAD、FOIPは、当然ながら大国の視点によるものですが、その領域には太平洋島嶼国やインド洋の島嶼国など小島嶼開発途上国(SIDS, Small Island Developing States)が含まれます。日本は青年海外協力隊を含む政府開発援助により、それらの開発途上国の人々と国の発展のために協力し、丁寧な人間関係を構築しています。そのため、私は、日本にはそれら大国視点のイニシアティブに対して、太平洋島嶼国を含むSIDSの視点を反映する役割があると考えています。日米が経済協力・開発協力の文脈で連携し、大国のさまざまなイニシアティブを、太平洋島嶼国を含むSIDSの人々の実生活の改善に繋げることが期待されます。


塩澤英之氏は東京の笹川平和財団、太平洋島嶼国プログラムの主任研究員。本インタビューでの意見はご本人のものであり、所属団体のものではない。

このインタビューはNBRのエネルギー・環境グループのプロジェクトアソシエート、會田千尋の実施・英訳による。